宿泊施設を運営する立場であれば、客室需要をしっかり予想して、客室価格の調整をタイムリーに行う力を身に着けておきたいものです。ですが常に変化する客室需要は、運営者にとって価格決定を難しくする大きな要因です。
収益性をもとめて強気な価格設定に設定するべきか、あるいは客足を確保するため単価を下げるのか、
なかなか判断のつけがたい問題に頭を抱えるホテル運営者も多いでしょう。そこで味方となるのが今回紹介する「ブッキングカーブ」です。
自施設の予約状況を把握し、価格設定のヒントを与えてくれる指標について解説していきます。
ブッキングカーブとは?
ブッキングカーブとは、宿泊当日までにどのくらい予約が入っているのか、予約のペースや予約の傾向を把握できるグラフです。グラフは縦軸を稼働率、横軸を宿泊当日までの残り日数で表し、予約推移の軌跡が弧を描くことからブッキングカーブと言われています。
日々の予約状況をグラフ化することで予約の推移を可視化し、どのくらい客室が埋まっているか(OCC)、どのくらいの価格で売れているのか(ADR)といったレベニューマネジメントに必要な基礎データを教えてくれる役割も果たします。
ブッキングカーブは、Excelを用いて管理することも可能ですが、レベニューマネジメントツールで管理するのが一般的です。
なぜホテル運営にブッキングカーブが重要なのか?
ここまでブッキングカーブが、「予約の入り具合を知る」「予約の傾向を知る」「状況に応じた適正価格を知る」ことができるとお伝えしました。次に、これらのブッキングカーブが持つ働きがなぜ重要かについて、その理由を3つ紹介します。
客室の売れ残りを最小限にする
運営者は、日々予約の動向をみて客室の販売価格を決定していきます。宿泊当日までに予約が不足している場合、価格の見直しが必要になりますが、価格設定のために客室需要を予測して決定することは極めて困難な作業です。
なぜなら、客室需要を決定する要因は季節やイベントごとに左右され、的確に見通すことが容易ではないからです。そこで重要になるのが過去の予約データです。
ブッキングカーブは過去の同月同日の予約データを参照し「これまで同じような状況でこのくらいの価格で予約が取れたので、おおよそこの価格が最適です」とヒントを提示してくれます。
つまり、ブッキングカーブは過去の予約データから客室需要を予測し、現在の相場に対するベストな価格を提案してくれるのです。これにより「客室の売れ残りを最小限にすること」が可能となります。
キャンセル数を見越す
施設の収益を考えると、当然ながらめざすべきは100%の稼働率です。では、最初から予約を満室分埋めればいいのかというと、そんな単純な話ではありません。予約が明らかに早期に埋まってしまうほど人気ということは、単価をもっとあげられたのかもしれません。いくら満室であっても単価が低ければ機会損失が発生してしまいます。
また、いくら満室の予約が入っていても、一定数でキャンセルが出てしまいます。部屋数ぴったりの予約を受け付けると、直前のキャンセルなどで稼働率が下がってしまいます。
そこで、繁忙期にはこのキャンセル分も見越して、あらかじめ満室より多くの予約を取ったりもしています。
しかし、キャンセル分を見誤ると、予想に反してキャンセルが少なくオーバーブッキングした、あるいは予想以上にキャンセルが出て客室が余ったということも起こり得ます。どのくらいのキャンセル数が出るかという見込みも、ブッキングカーブが役に立ちます。
過去のデータから時期別にキャンセルの発生率をはじき出すことで、統計的に大方のキャンセル数を予想することが可能なのです。これにより正確なキャンセル数を把握し、稼働率を維持することが期待できます。
適正価格を把握する
またブッキングカーブは過去の予約データから統計をとって、販売価格を調整することで予約の流入を向上させるツールでもあります。そのため過去のデータが多ければ多い程、価格設定の精度が上がり、信頼のおける販売価格となり得ます。
レベニューマネジメントツールとの組み合わせによって日ごと、月ごとの収益目標と現在地の乖離も一目で判断できます。ですから、特定の宿泊日までにあと何部屋をどのくらいの価格で販売すべきかを容易に判断できるようになるのです。
ブッキングカーブを計測するためには
ブッキングカーブを用いて予約状況を把握し、得られたデータを正確にレベニューマネジメントに応用するには、非常に高度な運営手腕が求められるうえに、客室需要を捉える敏感な肌感覚を必要とします。
経験豊富なベテランのホテリエであれば、長年の勘を頼りに客室需要を予測し、直感的に価格設定をコントロールすることは難しくないでしょう。
そして彼らの実力はツールに負けず劣らずの高い正確さを発揮するのも事実でしょう。
しかしそれには、デメリットもあります。それは彼らが一度現場を離れるとノウハウ自体が組織から離れてしまうということです。
過去のデータに基づいた統計的なブッキングカーブを活用することで、ノウハウが属人化するのを防ぎ、すべてのスタッフがレベニューマネジメント扱えるようになるのです。一部の人間に業務負担が偏ることを防ぎ、組織全体の運営力を底上げするという意味でも、統計的な手法を推奨します。
レベニューマネジメントツールと合わせて使うメリット
ブッキングカーブはExcelでも管理可能とお伝えしましたが、客室が多かったり施設規模が大きかったりすると扱うデータが多くなり、手動で数字を打ち込むやり方では不安が残ります。そのためブッキングカーブはレベニューマネジメントツールによって一元的に管理することをおすすめします。ここではそのメリットを2つ紹介します。
運用の効率化を実現
ブッキングカーブをレベニューマネジメントツールで管理することで、サイトコントローラーとOTA(Online Travel Agency)と自動で連携してくれます。その際に取得した予約情報から客室単価と稼働率を自動で計算し、レベニューマネジメントをひとりでに行ってくれるというメリットがあるのです。
例えば、レベニューマネジメントとブッキングカーブが連動した機能として、収益目標と現在の予約状況の差を分析し、残りの客室に対してどのくらいの価格がベストなのかを運営者に教えてくれる、というものがあります。日々の予約状況から収益を最大化させるためのヒントを自動で算出してくれる大変便利なものです。
レベニューマネジメント業務の属人化を防ぐ
もう一つのメリットとして、レベニューマネジメントの属人化を防ぐ役割も忘れてはいけません。のちほど詳しく解説しますが、レベニューマネジメントは新人のスタッフにはハードルが高く扱いが難しいものです。ツールを用いて運用の複雑さを克服することで、全員がノウハウを共有し経営判断を行うスキルを組織全体で底上げすることも期待できます。
HOTEL SMART(PMS)のレベニューマネジメントシステム機能ではブッキングカーブの確認に加えて、そちらのデータをもとに価格の提案まで行います。是非この機会に確認してみてはいかがでしょうか。
ブッキングカーブを計測するための下準備
ブッキングカーブは、蓄積した予約データから傾向を把握できます。ですからブッキングカーブを計測するためには、その下準備としてまずはデータの蓄積が最低条件です。
なぜなら、ブッキングカーブを作成する際には過去の宿泊データから予想を立てるからです。過去のデータがないことには傾向と対策を立てることができません。
そのうえでサイトコントローラーやPMSに蓄積された予約データはブッキングカーブを利用するうえで貴重な参考材料となります。必ず確保しておくようにしましょう。
しかし、施設によっては必要な情報がPMSに蓄積されていなかったり、そもそもPMSを使っていないという施設もあります。その場合はまず、PMSの導入から始めましょう。PMSについては「PMSとは」の記事でそもそもの役割や選び方まで解説しています。是非ご覧ください。
ブッキングカーブまとめ
ブッキングカーブは客室需要を把握し、正確かつスピーディーな経営判断のための貴重なデータです。宿泊当日までにどのくらい予約が入っているか、また予約の入り方にどのような傾向があるのかを知ることで、価格戦略の大きなヒントとなるはずです。また自社の過去のデータを蓄積し継続的に取り入れることで大きな運営資産ともなり得ます。かしこく活用して競合に後れを取らないよう戦略の要としみてはいかがでしょうか。
ブッキングカーブは数あるレベニューマネジメントの手法の一つです。実際の施設運営の際にはブッキングカーブ以外にも考慮すべき項目は多数あります。
レベニューマネジメントについては下記の記事で解説しています。ここまで、お読みいただいたかたは是非こちらの解説記事もご覧ください。