
本記事は宿泊施設のキャッシュレス化についてを、全国3,500施設以上のホテル・旅館様へ、宿泊管理システム(PMS)や自動チェックイン機などの提供を通じて得た現場の知見と、最新の業界トレンドを基に、宿泊施設の経営に役立つ実践的な情報を解説します。
目次
ホテルや旅館などの宿泊施設におけるキャッシュレス化とは
宿泊施設におけるキャッシュレス化とは、宿泊料金や館内サービス(飲食、物販、スパ、アメニティ等)の支払いを、現金ではなくクレジットカード、QRコード決済、電子マネー、モバイルウォレットなどの電子決済手段で完結させる仕組みを指します。
宿泊税の支払いなど、一部には現金精算のニーズが依然として残るものの、インバウンド需要への対応や利便性・管理効率の向上を背景に、キャッシュレス対応の普及率は年々高まっています。
このようなキャッシュレス運用により、ホテルや旅館などの宿泊施設は会計業務の効率化、現金管理リスクの軽減、オペレーションの最適化などが期待されますが、一方で導入には技術面・運用面での課題も存在します。
キャッシュレス化の現状

引用:JETRO『Attractive Markets』
現在、宿泊業界を含む幅広い分野でキャッシュレス化の進展が顕著に見られます。
日本においては、総支出に占めるキャッシュレス決済比率が2016年の約20%から、2023年には約39.3%へと上昇しており、国際的にも高い普及率を誇る諸外国との差が徐々に縮まりつつあります。
しかし、その普及速度には業種や地域による差が存在します。特に地方や中小規模の事業者では、依然として現金対応を維持するケースが多く見られます。宿泊施設においても、都市部の大型ホテルなどでは導入が進む一方で、小規模な旅館や古民家を活用した宿泊施設では、キャッシュレス化の遅れが課題となっています。
国内のキャッシュレス化
日本国内では、IT導入補助金をはじめとする政府・自治体のキャッシュレス推進政策や、QR決済事業者によるポイント還元制度・キャンペーンなどの効果により、キャッシュレス利用環境は着実に拡大しています。
特に都市部では、小売店・飲食店・交通機関を中心に、クレジットカード、ICカード(Suica/PASMO等)、QRコード決済(PayPay、楽天Pay 等)の利用が一般化しつつあります。
また、2024年7月3日から発行が開始された新紙幣への対応を契機として、これを機にキャッシュレス化へ踏み切る企業も見られました。
一方で、地方や観光地などでは依然として現金主義が根強く、キャッシュレス非対応の店舗も少なくありません。こうした地域的な差異は宿泊業にも、あらゆる機会損失などの影響を及ぼしており、地方の宿泊施設では、キャッシュレス対応の有無が宿泊先を選ぶ際の重要な判断要素の一つとなりつつあります。
国外のキャッシュレス化
海外では、キャッシュレスおよびコンタクトレス決済がすでに広く普及しており、特に中国・韓国・北欧諸国などではキャッシュレス比率が非常に高い傾向にあります。
JETROの報告によると、台湾・中国・韓国・米国・香港・オーストラリアなどでは、決済の半数以上がキャッシュレスで行われており、日本におけるキャッシュレス化の余地の大きさを示しています。
さらに、モバイル決済、NFC、QRコード、タッチ決済などが日常的に利用されており、多くの旅行者は「現金を持たずに旅行できる」ことを前提として行動しています。
そのため、ホテルや旅館などの宿泊施設が外国人旅行者を受け入れる際には、こうした海外水準とのギャップを認識し、キャッシュレス環境の整備を進めることが求められます。
インバウンドの国別割合
ホテルや旅館などの宿泊施設がキャッシュレス化を検討する際には、どの国や地域からの訪日客が多いかを把握することが重要です。
特に、東アジア・東南アジア諸国からの旅行者が多い地域では、中国・韓国・台湾など、キャッシュレス利用率の高い国の決済手段を優先的に導入することが効果的です。
Euromonitorの報告によると、日本国内におけるインバウンド旅行決済の約40%がクレジットカードで行われており、キャッシュレス対応が訪日客の利便性向上に直結することが示唆されています。
また、国別の消費割合や訪日客数ランキングを基に、上位国(例:中国、台湾、韓国、米国、オーストラリアなど)を優先対象として決済方式を整備する戦略は、主要顧客層とのニーズのずれを減らし、集客力や顧客満足度の向上につながると考えられます。
引用:『Analysing Inbound Travel Payment Experience in East Asia’s Key Destinations』
キャッシュレス化に関する課題
技術的課題
キャッシュレス決済を導入・運用するにあたっては、システムそのものの安定性に加え、初期費用や設定作業、申請手続きなどの手間が課題となることがあります。
決済端末の選定や通信環境の整備、各種決済サービスとの契約・申請など、導入初期には専門的な知識や一定の工数が求められます。
また、チェックイン端末・決済端末・PMS(ホテル管理システム)など、複数システムを連携させる場合には、仕様やデータ連携の調整が必要となり、運用担当者にとって負担となるケースも見られます。
こうした導入・運用の複雑さを解消し、スムーズなキャッシュレス環境を構築するには、サポート体制や一元的に管理できるシステム構成が重要です。
運用コスト・手数料負担
キャッシュレス決済の導入には、初期導入費(端末購入費やシステム構築費)に加え、ランニングコスト(決済手数料、保守費用、システム運用費)など、継続的な費用負担が発生します。
特に小規模施設においては、これらのコストが導入判断の大きな障壁となりやすく、ROI(投資回収見込み)を慎重に見極めることが求められます。
さらに、複数の決済事業者を併用する場合、端末の運用管理や精算業務が煩雑化する傾向があり、現場での負担増につながるケースも少なくありません。
利用者の受け入れ・教育
特に高齢者やITリテラシーの低い宿泊客に対しては、キャッシュレス決済の操作に不慣れな場合があり、現場でのサポート対応が求められます。
そのため、トラブル発生時に迅速に対応できるサポート体制の整備や、操作方法をわかりやすく示した案内表示(多言語対応を含む)の設置が重要です。
また、現金での支払いを希望する顧客も一定数存在するため、完全キャッシュレス化と現金併用のいずれを採用するか、施設の客層や運用体制に応じて柔軟に検討する必要があります。
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キャッシュレス化のメリット
ホテルや旅館などの宿泊施設にキャッシュレス化を導入することで、業務効率や顧客満足度の向上など、さまざまな有形・無形のメリットを得ることができます。
以下に、その主な利点を示します。
ゲストの利便性向上
宿泊客にとって、現金を持ち歩く必要がなく、両替やお釣りの受け渡しといった手間を省ける点は大きな魅力です。
キャッシュレス決済により、チェックイン・チェックアウト時の待ち時間を短縮し、スムーズな支払いを実現できるため、顧客満足度の向上やリピート利用の促進につながります。
近年、金銭だけでなく部屋の鍵も番号式のスマートロックなどを採用するホテルが増えており、なるべくゲストへの持ち物を減らし、利便性を向上させる動きが多くみられます。
特にインバウンド客は、現金利用に制約を感じるケースが多く、複数の決済手段に対応することで、利便性の向上とともに施設の競争力強化にも寄与します。
スタッフの業務量削減
現金の取り扱いや釣銭の準備、レジ締め、会計ミスへの対応といった業務負荷が削減され、業務効率の向上とヒューマンエラーの防止が期待されます。
フロント業務や精算業務のスピードアップにより、スタッフは顧客応対の品質向上や付加価値の高い業務、いわゆるコア業務により多くの時間を割くことが可能になります。
実際に、キャッシュレス化を導入したホテルでは、レジ締めなどの精算処理にかかる時間が大幅に短縮されたという報告も見られます。
宿泊施設がキャッシュレス化を導入する際のポイント
キャッシュレス化を成功に導くためには、技術面・運用面・顧客体験のバランスを意識することが重要です。
以下のポイントを踏まえ、最適な設計と導入を進めましょう。
チェックインシステムとの連携
チェックイン端末(セルフチェックイン端末/スマートフォンチェックインなど)とキャッシュレス決済をシームレスに連携させる設計が望まれます。
滞在客が客室に入る前に決済を完了できる事前決済方式や、チェックイン直後にスムーズに支払い処理を行える直感的なUI設計を取り入れることで、フロント業務の混乱を防ぎ、オペレーション全体の安定化につながります。
キャッシュレス決済対応のホテル向けオールインワンシステム

HOTEL SMARTが提供するチェックインシステムやホテル管理システム(PMS)、予約システムは、旅前のオンライン決済はもちろん、チェックイン/チェックアウト時のキャッシュレス決済にも対応しています。
ゲストは自身のスマートフォンからクレジットカード決済を行えるため、利便性を高めながら導入コストを抑えた運用が可能です。
また、PMSでは決済情報の管理に加え、スマレジやAirレジなどの外部POSレジシステムとAPI連携・CSVデータ連携が可能なため、館内の売店やレストランなど複数の販売拠点を含めた一元管理を実現します。
これにより、売上金額や決済データを手動で転記する必要がなくなり、入力ミス防止や会計業務の効率化など、さらなる業務改善に貢献します。
まとめ
キャッシュレス化は、宿泊施設の業務効率化・顧客満足度向上・管理コスト削減を実現する重要な取り組みです。チェックイン端末やPMSとの連携により、決済・精算・帳票処理の自動化が進み、スタッフの負担軽減とサービス品質の向上が期待されます。また、インバウンド需要や多様な決済手段への対応が競争力強化につながる点も大きな利点です。施設の規模や客層に合わせた導入設計が、キャッシュレス運用成功の鍵となります。